スクラップド・プリンセス
Story



セーネスの要塞、スキッドの奥で、ゼフィリスの仲間であるナタリイからこの世界の秘密について聞く三兄妹。だがそこに、ピースメーカー・ステアに操られたギアット帝国軍の艦隊が攻撃してきた。更にステアはスキッドに対し中継点をさし向けてくる…。




移動要塞《スキッド》を砲撃する武装艦隊。群れを成して上陸してくる中継点。第二級神罰執行形態となったステアと、ゼフィリスと一体化したシャノンの戦い。派手なアクションが連続する中で、物語の核となる謎が明らかになる。 人間が絶対、逆らう事の出来ない《律法》。この力で世界を支配する《ピースメイカー》に対抗するため、ナタリィたち《ドラグーン》とその主が実行したのが《プロヴィデンス・ブレイカー》と、それを守護する《ガーディアン》に関する計画だ。

《プロヴィデンス・ブレイカー》・・・それは世界で唯一、《ピースメイカー》の支配を打破できる存在だ。《プロヴィデンス・ブレイカー》であるパシフィカだけが《律法》をキャンセルする力を持ち、しかもその特性は周囲の人々に「伝染」していく。パシフィカを中心に据える事によって、人は初めて《ピースメイカー》に対抗しうる軍団を組織する事が出来るのだ。セーネスたちがカスール三姉兄妹を手にする事によってもくろんでいるのは、まさに神に対する革命。ここに《ピースメイカー》がパシフィカの命を狙う理由がある。世界を滅ぼす猛毒=廃棄王女とは、神の支配を脅かす存在だったのだ。

この話を見た時、筆者が思い起こしたのが、我々の世界でかつて起こったルネサンスである。 ご存知の通り、ルネサンスとは14世紀のイタリアから起こり、ヨーロッパ全土を揺るがした芸術・思想の革新運動である。「ルネサンス」とは「復興」の意味を持ち、わかりやすく言うと「人間性の復興」がその目標である。 それまでヨーロッパでは、社会システムは封建制に、人間の精神面はカトリック的価値観によって支配されていた。人間ひとりひとりを独立した存在として考えるのではなく、政治的には「君主」、精神的には「教会」に所属するパーツと考える。そこでは個としての人間性は否定される。「個」を犠牲にして「集団」に尽くす。しかも支配階級に都合の良いように・・・。そのように抑圧されていた個人の人間性を解放する運動。それがルネサンスなのだ。

ルネサンス期の市民は生き方の手本をギリシア・ローマ時代に求め、その時代の文学や芸術を研究し、新しい生き方を模索した。ここでギリシア・ローマ時代が手本とされたのは、中世ヨーロッパの価値観であるキリスト教の支配を受けていなかったからである。神から自由になり、人間性そのものを復興させたルネサンス期の人々は、哲学・芸術・科学において目覚しい発展をとげ、ついには産業革命を経て「中世」から「近代」への移行を果たす。かつて神の教えに従って「地球は平らであり、月や太陽がその周囲をまわっている」と信じていた人間が、ロケットを月にまで飛ばすようになったのだ。視点を変えれば、ルネサンスとは、人間が自由になるために神に挑んだ戦いだったのだ。

歴史の教科書のような文章になってしまったが、この「神への戦い」は、しばしば我々の時代でも見る事が出来る。なぜへヴィメタル・バンドが悪魔のような扮装をするのか?なぜヒッピーはインドに魅かれるのか? 今のヘヴィメタ・バンドやヒッピーは意識していないかもしれないが、元々は自分の生まれ育った日常の価値観・・・キリスト教的価値観から解放されるためである。欧米文化圏においてはカウンター・カルチャー・・・それまで主流とされてきた文化の流れに反発する形で形成される文化・・・とアンチ・キリストは密接な関係を持つのだ。

日本においてはアンチ・キリストというと、どうしてもインモラルなイメージがつきまとう。だが本来、カウンター・カルチャーにおけるアンチ・キリストとは、宗教としてのキリスト教を否定したり、故意にアンモラルな行為を行ったりする事よりも、「日常の価値観からの脱却」をメインにしたものだった。同じ悪魔の格好をするのでも、キリスト教文化圏で育った欧米人と、もともとキリスト教徒ではない日本人とでは、その意味に大きな違いがあるのはおわかりいただけるだろう。「生まれた時から正しいと教えられてきた事に疑問をもつ」。それが本来の「アンチ・キリスト」の意味だったのだ。このあたり、生まれた時から植え付けられている《律法》に戦いを挑むセーネスたちの姿が重なる。

話が若干それたが、筆者が言いたかったのは「人間と神との戦い」とは、決して神話世界の空想物語ではないという事だ。パシフィカたちカスール三姉兄妹やセーネスが挑もうとしている「神との戦い」は、かつて我々の世界でも行われ、もしかしたら今、このコラムを読んでいるあなた自身が近い将来に挑むかもしれない、自己解放のための戦いなのだ。

だが、この戦いを語る時、避けて通れないのがシャノンたち《ガーディアン》の真実である。ナタリィたちは《プロヴィデンス・ブレイカー》を守るための因子を世界中にバラまいた。その因子は様々な人の中に根付いた。今は亡きカスール三姉兄妹の両親。ウイニアやレオ、ベルケンスなど、旅の途中で出会った人々。そしてその因子が最も強く発動したのが《ガーディアン》・・・。シャノンとラクウエルだったのだ。

パシフィカが廃棄王女として、世界中から命を狙われるのも。シャノンとラクウエルが、全てを賭けてパシフィカを守る決意をしたのも。その全てが、「何者かに仕組まれた事」だとしたら・・・。《ピースメイカー》や《律法》から人間を解放するための戦いですら、誰かに仕組まれていたとしたら。この世界に存在する人間は、どこにアイデンティティを求めればいいのか?これからの物語から目が離せない。




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