スクラップド・プリンセス
Story


フューレの家を出て、知り合いのいる芝居小屋に身をよせるパシフィカたち。彼らはなんとか警戒の厳重な王都から逃げ出そうとしていたが、厳戒態勢の中、王都中の馬は王国軍の管轄下におかれてしまっていた。それを奪還しようとフューレが一計を案ずるが…。




前回のラスト。軍に所属していた時の旧友・スレイと再会したフューレ。部屋にいたパシフィカの事には触れず、フューレに部隊復帰の勧誘だけして去ったスレイだが、しっかりと廃棄王女発見の報を部隊に告げていた。 フューレもまた、スレイに見つかった事を察し、逃亡を決意する。プロフェッショナルの男同士の静かな対決に緊張感が張り詰める。

あわただしく手荷物をまとめ部屋を出る際、パシフィカが床に置かれた木桶と手ぬぐいを一瞥するのが切ない。フューレと銭湯に通った際に使った桶と手ぬぐいは、ささやかだった安息の日々の象徴なのだ。その安息の象徴も、扉を破ってなだれ込んできた兵士に蹴飛ばされてしまう。

クリスたち特務部隊オブスティネート・アロウも、廃棄王女捕獲に部隊の存続を賭けられ、窮地に追い詰められていた。そんな中クリスは「廃棄王女を王国に引き渡す事が、本当に正しい事なのか分からない」と呟く。今までのように、単に下された命令に従うのではなく、「自分の守りたいもの」のために、クリスはどのような決断を下すのか。

キダーフの助けを借りて芝居小屋に隠れるパシフィカ達。ここでマウゼル教の総本山である聖都グレンデルへの脱出という、大胆な計画をたてる。この場面でパシフィカとフューレがタマゴを取り合ったり(ここでパシフィカにタマゴを譲ろうとして、拒否されるレオ君が切ない)、フューレとレオが女装で検問を突破するなど、窮地の中にも微笑ましい場面が展開する。シリーズ開始当初から打ち出されているが、世界中に追われる身でありながら、決して明るさを失わないパシフィカの強さ。そして逆境の中でも、若い男女が懸命に生きる青春が存在する。これこそが「すてプリ」の魅力なのだ。

その「逆境の中の青春」がまばゆく輝く場面。検問所を通過する際、兵士に呼び止められた四人は走って逃げる。ここでフューレとパシフィカは手を握り合って走りながら、朗らかに笑う。これまで、フューレはパシフィカに対しては素っ気無い態度を取り、自分の気持ちを素直に出す事はなかった。 記憶を失ったパシフィカの面倒を見てきた事を、「仕事で追われている奴を逃がす事が多かったから、条件反射みたいなもんだ」と言い放つフューレ。だが、彼がパシフィカに対して素っ気無い真の理由は、前回のラストでスレイが投げかけたセリフにありそうだ。

「血まみれのお前が普通に生きられる訳ない」。スレイのこの言葉を、一番わかっているのはフューレ本人なのだろう。その為、彼は意識的にパシフィカに対して距離を置いてきたと思われる。だが逆に、それがパシフィカの「押しの強さ」と噛み合い、二人の関係は和やかに進んできた。その二人が初めて素直に笑いあった姿は、後に待ち受ける運命を思うと余りにも哀しい。

サブタイトル通り、路地裏で展開される壮絶なクライマックスには、下手な解説は野暮となるだけだ。ここでは、フューレとレオの男同士の関係に着目したい。

これまで言葉を交わす事が少なかった二人だが、パシフィカとウィニアが変装用の衣装を選ぶのを待ちながら、ポツポツと語り合う。「お前は大事な物を投げ打ってでも守りたいほど、あいつの事が大事なんだな」と呟くフューレ。ここで「廃棄王女をかばうと、自分の騎士としての未来が閉ざされてしまう」事を、あまり自覚していなかったっぽいのがレオ君の甘さだが(笑)、彼は「切り捨てるだけが騎士ですか?」と言い放つ。

馬を手に入れたものの、王国軍に見つかって追われる二人。追っ手を引き受ける決意をしたフューレは、先に行けと言われてためらうレオに、「お姫様を守るのが騎士の役目だろうが!」と言い放つ。ここで前述の「廃棄王女の首を切るのが騎士の役目」「切り捨てるだけが騎士ではない」という二人の会話が生きてくる。幾多の戦場で地獄を見てきたフューレからすれば、まだまだ世間知らずで未熟なレオ。だが、フューレはその純粋でひたむきな思いに、パシフィカの未来を賭けたのではないだろうか。

筆者はレオ君が初登場した第2話のコラムで、「未熟であるという事は、逆に言えば、未来があるという事である」と書いた。「血まみれで、普通に生きられない」フューレが、「未熟だが、未来のある」レオに託したパシフィカへの思い・・・。その思いは、直前にフューレとパシフィカの屈託のない笑顔を見ているだけに、熱く、重く、あまりにも哀しい。

雨に打たれるフューレの骸を見つけたシャノンは、「こいつが行こうとしていたのがどこであれ、もうそこには行く必要がない事を・・・。行きたくても行けない事を、誰かが教えてやらなきゃ、こいつは休む事が出来ないんだ」と呟く。パシフィカをレオに託しても、フューレは最期までパシフィカの元に行く事をあきらめなかったのだ。

最後になるが、今回のフューレと王国軍の壮絶な戦いについて触れておきたい。 昨今、アニメーションに限らずメディアが青少年に与える影響が懸念され、刺激的な描写は規制される事が多い。 だが本作においては、作品の持つテーマやメッセージが考慮され、数多くの人々の努力によって無事に放送された。製作側から放送局サイドに至るまで、本作の放送を実現させた全ての人々に敬意を表したい。

筆者は過去何度も、「すてプリ」は「自分の頭で考える者と、自分の考えを放棄する者との戦いだ」と述べてきた。メディアの影響を受けて安直に現実世界で他人を傷つける者は、「自分の考えを放棄した」人間である。本作を見た人は、なぜ作中で血が流れ、それがどのような意味を持つのかを「自分の頭で考えて」くれると信じている。我々は決して、行きたい所に行けない存在ではないはずだから。




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